「生活するのに便利な土地に家を建てたい」というのは、多くの方が持っている願望なのではないでしょうか。整備された街並みに、スーパーや娯楽施設などが徒歩圏内にある暮らしを想像してみてください。少し足を延ばせば何でも揃う暮らしは、時間を有効に活用できるばかりではなく、便利で豊かな人生をもたらしてくれるはずです。一般的には、都心に近い土地ほど土地代が高く、会社員世帯はそもそも都心に住むことを諦めることも多いのかもしれません。

しかし、少し立ち止まって考えて頂きたいのです。「広い土地を持っていないと家づくりはできない」と思っていませんか?また、狭い土地を利用して建てられる狭小住宅に対して「住みづらい」「余裕スペースがない」「窮屈」というイメージをお持ちではないですか?

結論から言うと、狭小住宅でも快適に暮らすことは可能です。むしろ、家族同士の距離が近い分、家族の絆を深めながら暮らすこともできるのです。狭小住宅の「なるほど」を、この記事で解説していきます。

狭小住宅とは

そもそも狭小住宅とは、どのような家のことを指すのでしょうか?狭小住宅を定義する明確な基準は存在しませんが、基本的には15坪以下の土地に建てられる住宅を「狭小住宅」と呼ぶ場合が多いようです。一見すると「狭い」「小さい」という要素はデメリットのように思えてくるのも無理はありませんが、もちろん多くのメリットがあります。

家族間の距離が近い

狭小住宅は狭い土地に建てられます。それは、家の中の床面積も絶対的に狭いということと同義です。したがって、家族間の距離が必然的に近くなります。「どこに家族のだれがいて、今何をしている」という情報が、家の中にいれば常にわかる状態なのです。

また、家族間のコミュニケーションが取りやすいということも挙げられます。距離が近い分何気ない会話がしやすかったり、お互いのちょっとした変化に容易に気付くこともできるはずです。こうした利点は、広い家に住んでいる人にはなかなか体感し難い部分です。

土地代を抑えて都心に近い土地に住むことができる


都心に近ければ近いほど土地代が上がるというのが一般的です。団地のように50坪程度の広さの土地を都心に近い場所で確保しようと思えば、それだけ土地代も多くかかってしまうのは当然のことです。したがって狭小住宅を建てる人は、「積極的に狭小住宅というスタイルを望んで狭い土地を購入した」ではなく「都心部との距離等、立地条件や周辺環境を優先して土地探しをしたら、結果的に狭小住宅になった」というケースが多いのが実情と言えます。

例え1坪当たりの単価は高くとも、土地自体が狭いために土地代が安く抑えられるというのも狭小住宅の大きなメリットです。居住空間が多少狭くとも、住んでいる環境が自分の気に入るものであればそこまで不満は出ないかもしれませんね。

長期的に住み続けることができる


「広い家に住みたい」というのは、多くの方が抱えている希望かもしれません。しかし、一度建てた家に長期的に住み続けることを考えると、狭小住宅に住むというのも一つの有効な選択肢です。

20代や30代などで家づくりをした当初は、行動力・活動力がある分、広い家でも家の手入れや庭木の管理、各部屋の掃除に至るまで、様々なことを精力的にこなしていくことができます。

家を建てた後、2年や3年住んで次の土地へ引っ越すというケースはなかなかないでしょう。おそらく30年や50年、ひょっとするとそれ以上の期間をその家で過ごし、場合によっては子や孫の代にまで住み継いでいくことも考えられます。

そのような中、家主が加齢により行動力が低下していくと、家を管理することもなかなか難しくなってくるのではないでしょうか。狭小住宅ではそのような場合でも、必要最低限の生活スペースさえ確保しておけば、管理する手間も一般的な広さの家よりも格段にかからなくなります。家を建てる時には、こうした数十年後を見越したライフプランを綿密に組み立てる必要があります。

デザインを工夫することにより、空間を広く見せられる

狭小住宅だからと言って窮屈な思いをするとは限りません。建築士や設計士、施主のアイデアにより、空間を広く見せる工夫を随所に盛り込むことによって、開放感ある生活空間を実現することができます。

実際に開放感を得るためには、吹き抜けや勾配天井を採用する手法があります。

床面積の狭いリビングなどの空間では、どうしても目線が横方向に向かい、狭さを感じてしまいます。このような時に天井を高くとれば、目線を上に向かわせることができ、広さを感じる仕掛けを作ることができるのです。吹き抜けや勾配天井は、このように縦方向に視線を向かわせることができるのと同時に、採光も確保できるという利点があります。

狭小住宅の場合は周囲に隣接する家との距離が近く、プライバシー確保の観点からなかなか窓を設置できない事例が多いため、太陽の光を部屋の中に取り込む工夫が必須になってきます。吹き抜け上部に窓を設置することにより、高い位置から降りすすぐ光を得ることができるのです。この利点は、空間を立体的に見せることができる勾配天井にも同じことが言えます。

様々な工夫により、狭い部屋でも逆に空間を広く「魅せる」ことができるため、さほど圧迫感や手狭感を感じることなく、逆に開放感を感じながら生活することも十分に可能です。

生活導線が確保しやすい

狭小住宅ではキッチンや洗面所、風呂などがそれぞれ近い場所に位置しているため、比較的移動に手間がかかりません。広い家などでは、一つ一つの要素が遠く、家の中を行ったり来たりするため移動距離が長くなります。そしてこの効用は、家事導線についても同じことが言えます。概ね手に届く範囲に必要なものや情報があるため、時間を有効に使いつつ、ストレスなく家の中を移動できることも利点と言えます。

Works(株)ホープスの建築実例

おしゃれな狭小住宅の施工実例(外観編)

前述したようなメリットがたくさんある狭小住宅ですが、本項では実際の施工例を挙げてみます。それぞれの土地の実情に合わせ、様々な工夫が凝らされている家たちは、まるで建築家や施主による作品のような雰囲気も感じられます。

通りに面した土地の狭小住宅

通りに面している土地は、利便性があるのと同時にデメリットも存在します。例えば、多くの人の「目」があるということです。とは言え都心に住む以上、この問題は向き合わなければならない課題とも言えます。

画像の家では、角地にあるため多くの人の視線をより浴びる立地のため、通りに面した窓を極力シンプルかつ必要最低限にすることで、家に住む人のプライバシーを確保しています。全体的にスタイリッシュでスマートな印象を与える家ですね。

1階部分を駐車場に

建築面積が限られている狭小住宅では、1階部分を駐車場として利用する例が多いです。画像の家でも、1階部分を駐車場として、スペースを有効活用しています。

こうしたケースでは、1階部分には玄関や納戸などを配置し、家の人が住むスペースを2階以上にする例が多いです。こうすることで、極力リビングや寝室などの生活スペースをより広く確保できると同時に、採光を適切に確保することにより、人が過ごす場所に多くの光を取り入れることができます。

狭い土地では地下にも部屋を確保しよう

細長い土地の家です。このような狭めの土地は都心部でよく見られますが、例えば地下室を設けることによって、居住スペースを確保することができます。

シンプルかつおしゃれな玄関周りが、来訪者を心地よく招き入れてくれます。

片流れ屋根でおしゃれに

片流れ屋根は、3階建て住宅、特に斜線制限がある土地ではよく見られる屋根の形です。建築基準法に対応するのと同時に、3階部分を勾配天井にできたり、吹き抜けにして開放感を得ることもできます。

 

 

 

 

 

おしゃれな狭小住宅の施工実例(内観編)

外観ももちろん気になりますが、やはり気になるのは部屋の中をどれだけ過ごしやすく造るかということですよね。ここでは、様々な狭小住宅の内観作りの実例をご紹介します。狭い空間ながら、より部屋を広く見せるための工夫が随所に散りばめられているのが見て取れるかと思います。

吹き抜けで空間を広く「魅せる」


画像でも確認できるように、吹き抜けを採用することで空間を広く見せることができるのと同時に、光を多く取り入れることが可能になります。全体的に白を基調とした内観で、部屋全体が明るく見えるのが特徴です。

勾配天井も部屋を広く見せてくれる

こちらはリビングダイニングキッチンですが勾配天井の採用により空間が広く、開放感のある造りになっています。天井が高いと、視線が横方向だけでなく縦(上)方向に向かうため、広がりのある印象を与えることができるというのが良くわかる例になっています。

また、空間を広く見せる工夫として、対面式キッチンの採用を検討してみても良いかもしれません。キッチンとダイニングを隔てるものがないため、こちらも開放感のある空間を演出することができます。また対面式キッチンは、キッチンで料理を作る人とリビングダイニングでくつろいでいる人が同じ空間を共有することができるため、家族間のコミュニケーションを取りやすいという嬉しい利点もあります。

Works(株)ホープスの建築実例

狭小住宅の間取り

 

ホープスの狭小住宅の間取りに対する考え方は、土地の諸条件によってボリュームは決まってきてしまいますが、その中で何部屋確保するのか?どのような部屋が欲しいのか?も、もちろんご要望として大切なことと思いますが、そのことで間取りが決まるのではなく、お客様それぞれに異なる「お客様だけの生き方や暮らし方」によって、まったく異なる間取りができるものと考えています。さらに狭い敷地でも広々さを感じて頂けるような1室空間となる工夫や、採光や通風、そして構造等、狭小住宅が確保していなくてはならないバランスを確保し設計しております。

 

まとめ

狭小住宅のメリットを中心に解説しました。特に写真の実例紹介により、狭小住宅でもおしゃれな家づくりをしていくことは十二分に可能であるということがお伝えできたかと思います。狭小住宅に対する「狭い」「窮屈」イメージを払拭できたのではないでしょうか?

工夫次第では狭小住宅でも開放感のある快適な暮らしは手に入れることができますし、むしろ一般的な広さの家と比較してもローコストであるなどのメリットも多数あります。家づくりを本気で考えている方は「狭小住宅に住む」という選択肢も検討されてはいかがでしょうか?

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著者情報

清野 廣道

清野 廣道

株式会社ホープス代表 
一級建築士
横浜市出身・1995年7月ホープス設立
限られた敷地条件を最大限に活かした、風・光・緑の感じることのできる空間提案を心がけています。

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