ここが狭小地!?お店もテラスも居心地も、すべてが叶えるには?
ここが狭小地!?お店もテラスも居心地も、すべてが叶えるには?
「この土地では、希望の家は建てられない」。相談した設計会社から立て続けにそう言われたKさん夫妻が、最終的に自宅の設計を託したのは 株式会社ホープスの清野廣道さん。都内の狭小住宅を多数手がける同社は敷地を最大限に活用し、坪数を感じさせないのびやかで心地よい空間をつくり上げた。
「上」と「奥行き」を活用。陽光あふれる開放的なLDK
通りから見ると、ほとんど壁である。窓も小さい上に少なくて何だか箱のようだし、出入口らしきものも見当たらない。1階の窓をこっそりのぞくと、温かみのある和のうつわがずらりと並び、カウンターと椅子もある。いったいここは何なんだ……? お店? 家?
答えは、その両方だった。家主は3匹の愛犬と暮らすKさん夫妻。郊外の社宅に住んでいたがそろそろ家を建てようと決め、お互いの実家に近いエリアで土地探し。立地を優先して最寄駅や繁華街に近い土地を選んだが、大通りから奥にのびた細長い敷地で広さは14.5坪。隣の建物と密接しており、家を建てるには好条件と言い難い。
それでも、Kさん夫妻は新居に対するさまざまな希望があった。自宅兼店舗とし、奥さまが営むうつわと軽食のお店を1階に。大きなテレビを設置できるゆったりとしたLDKがいい。バスルームは開放感を持たせたい。ロフトをつくって広々したテラスも欲しい。もちろん、採光、通風もよくしたい……etc.
だが、いざ設計会社に相談すると「この土地じゃ、狭くて無理ですよ」。数社に難色を示され、ときには別の土地を探しましょうとまで言われたりもした。あきらめずに受けてくれそうな会社を探し、望みをかけて訪れたのが株式会社ホープスだ。
同社を訪問したふたりに返ってきたのは、「できますよ」という答えだった。嬉しい反面、あっさりとした快諾に戸惑いもあり、いったんは帰途につくも「ホープスさんの事務所近くのコーヒー屋さんで妻と話し合い、すぐまた引き返して正式に依頼したんです。他社に『できない』と言われたことを『できる』と言われたのが心強かったし、木造でも地震に強い工法を取り入れてくださることも魅力でした」とKさんは振り返る。
K邸の玄関に足を踏み入れると、まず目に入るのは階段だ。その階段を一段ずつのぼっていくと徐々に明るい光が落ちてくる。2階は生活の中心となるLDK。細長い敷地を活かした奥行きのある空間は、リビングスペースが吹抜けになっていて開放感たっぷり。上のロフト階には自然光を取り込む大きな窓。階段で感じた光は、この窓からの光だった。
ロフト階には、2階のダイニング部分の屋根を利用して念願の広いテラスもつくった。日当たりがとてもよく、爽やかな光と風を楽しむティータイムにぴったりだ。夏は都内有数の花火大会を間近で鑑賞できる特等席にもなる。
同社によると、「満足度の高い狭小住宅づくりのポイントは、住む人の生き方、生活をよく知り、必要なものだけを取り入れて余計なものをそぎ落とすこと」。K邸の場合は、廊下はつくらず動線をできるだけ短くして居住空間を確保。一方で、水まわりなどKさん夫妻が具体的にゆとりある造りを希望したスペースは、収納を移動させるなどの工夫で願い通りの広さをとっている。
「店舗は1階、LDKは2階と分かれているので、仕事場と同じ建物でもオン・オフがつけられていいですね」と奥さま。Kさんも、「リビングは明るくて天井が高いし、ダイニングも2階全体を見渡せるレイアウトで開放的。家にいるときはたいていここでくつろいでいます」と大満足の様子。外から見ると「窓が少ないっ…!」と思ってしまう壁面でできた箱のような建物の中には、陽光に包まれて穏やかな暮らしが叶う気持ちのよい空間が広がっていた。
建具にこだわり、自分で塗装することによって愛着のわく空間に
素材や建具などのパーツもこだわった。たとえば1階の店舗の扉と看板は、奥さまが移転前の店舗で使用していた思い入れのあるもの。看板はレトロな錆鉄で、「ホープスさんは家全体のデザインを考えるとき、この看板のイメージを活かすことを常に考えてくださったみたいです。そういう心遣いは本当に嬉しいですね」と奥さま。
内装の塗り壁は、ペンキ、モルタル、水晶を含んだ花崗岩や石灰を配合した自然塗料を場所によって使い分け、ペンキと自然塗料部分は夫妻自らの手で塗装した。休暇を利用し、養生も含めると1週間近くかけての作業だった。大変だが自分の家づくりに参加することは楽しく、何より愛着が深まる。
Kさんが、「荒々しい感じがよかった。きれいすぎるのは好きじゃないんです」と選んだ理由を説明してくれた床は、木目が味わい深いオークの無垢材。キッチンの造り付け収納は合板の素朴な造りで扉はない。「扉があると使わなくなっちゃうと思って(笑)。それに、扉がない方が通気性が高くて食器の保管に適しています」とは、うつわのプロである奥さまの弁。ほかにも照明器具やスイッチプレートなど、細部までおふたりのこだわりが形になっている。
一方で、造り付け収納のおかげもあるが、総じてK邸にはあまり家具がない。ソファやベッドは入居の際に「要らない」と判断した。自分たちのことをよく知っていて、身近にあると暮らしが豊かになるものだけを見極めているのだろう。
すっきりと無駄がなく、それでいて心落ち着くぬくもりがある。そんなK邸にいると、この家は、ふたりの意志を一つひとつ丁寧にくみとり、住む人にとって価値ある空間を考え抜いた結果なのだと思えてくる。あらためてKさん夫妻に「家づくりのテーマは?」と質問すると、満面の笑みで「居心地です」という答えが返ってきた。
Voice:風と光にみたされた家
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Works:風と光にみたされた居心地のいい家