シンプルさを極めつつご夫妻のライフワークと趣味に寄り添った家
今回、お邪魔したS様ご夫婦のお住まいは、アクセサリー製作がライフワークであるご主人と、世界中のあらゆる石鹸のコレクターでもある奥様の理想を具現化したものだ。ご主人の「シンプルな家を創りたい」というコンセプトを基に、ご夫婦のライフスタイルに寄り添う住まいを形にする。それは繊細かつ高感度なクリエイティビティさがなければ成し遂げられないといえるだろう。今回はS様ご夫婦の理想の住まいにお邪魔して、ホープス代表・清野を交え、当時の模様を振り返ってもらった。
あふれる想いを具現化してくれる建築事務所と出会うまで
まず、ご主人が「最初は中古の物件を買って、自分で手を加えていこうと思っていたんです」と語ってくれた。自らアクセサリー製作を手掛けるご主人らしい発想だ。「いろいろな不動産業者さんを訪ねて、世田谷、目黒、神宮前あたりの物件をおそらく20軒以上は見ましたね。例えば池尻大橋の物件は、お隣の家との距離がすごく近くて、敷地も狭いんです。そんなとき、ある方に『理想の建物、理想の土地、理想の金額。こんな物件が見つかるなんて奇跡ですよ』と言われまして。『ああ、そうだな』と。『それならば自分の家を建てよう』と決意したんですね。」
理想の家を建てる。つまり注文建築の家を創ることになる。ここで重要なポイントとなるのがパートナー(依頼先)選びだ。クオリティはもちろんだが、お互いの相性も重要となってくる。S様ご夫婦がホープス代表である清野に理想の住まいを託した決め手は何だったのだろうか?
「ホープスさんを選んだ理由は、実際にお会いしてみて『この企業なら信頼できる』とずばり思えたからです。インターネットで検索して上位表示された別の建築会社さんにも足を運んでみたんですが、まったくしっくりこなくて。例えば、こちらのリクエストに対して耳を傾けてくれるのはありがたいんですが、まったくと言っていいほど提案がなかったり。はたまた、そもそもリクエストを汲んでくれる姿勢はありがたいんですけが、すべてのリクエストを実現させたらとんでもない家になってしまうことも容易に想像できたんです。」
確かに、素人がコスト面や実用性を後回しにした理想を追求してしまうのは仕方がないかもしれない。何しろ、夢に描いた自分の城を建てるのだ。ロマンを追い求めたくなるのも当然といえるだろう。そんな時に巡り合ったのがホープスというわけだ。
ご主人曰く「清野さんには『シンプルな家を作りたいんです』とお伝えしました。」ということだが、シンプルな家というのは、作り手からするとハードルが高い要求だろう。ホープスはそのリクエストをどのように応えていったのだろうか。「シンプルといっても、どこまで突き詰めていくか?が難しいんですね。S様は『家であれば、間取りはないいでもいい』という方ではないということを初めてお会いした時に感じました。そこで、S様と打合せを重ね、その中から感じたことを丁寧に汲み取っていこうと考えたんです。」と清野はいう。
「弊社のスタッフには常々、『うち(ホープス)に来られるお客様はきちんとしたお仕事をされている方々で、【仕事は何か?】ということをご理解されているからこそ今がある。だから我々も、住まいのプロフェッショナルとしてきちんとお答えしなければならないし、またそうでなければ信頼を得られることなんて到底できない』と話しているんです。」
その真摯かつ誠実な姿勢はS様ご夫婦にも好感触だったようだ。
施主と家づくりのプロが、二人三脚で理想の家を実現
「帰りの道すがら、ホープスさんから頂いたパンフレットに掲載されている過去の作品(創られた家)を、妻と見ていたんです。『ホープスさんはきちんとした会社だね』ということで意見が一致したんです。」こうしてS様邸の住まいはホープスが手掛けることになった。
ご主人がなぜ「シンプルな家」にこだわったか。「うちには私が収集しているアンティークなものが多く、そのもの自体に主張があるんです。だから、シンプルな家にしないとバランスが取れないと思ったんです。」その結果、室内はアンティーク品との相性を鑑み、「マット調の白」を基調に仕上げられた。
また、自宅に友人たちを招いてパーティをすることが多いというS様ご夫妻には、家を建てるにあたり「自分たちの新居に客人を招いてパーティをしたい」という想いがあった。そこで「ワンフロアはトイレなどを設置せず、パーティ専用のスペースにしたい。」というリクエストを出された。
清野曰く「『ご自宅でホームパーティを開きたい。3階をアトリエにしたい。2階のバルコニーの前の電線が生活の邪魔にならないようにしたい。』というリクエストを頂きました。それぞれの要望にどのように応えていくのがベターベストなのかをじっくり検討し、提案していきました。」
S様ご夫妻が選んだ土地には段差がある。高低差はおよそ60㎝。ホープスはこれに着目した。「この60㎝という数字がミソなんですね。60㎝までの段差に家を建てる場合、ひとつのものとして構造計算ができます。しかし、それ以上の大きな段差になると、2つの構造体として扱わなければならなず、一気にコストが上がってしまうんです。そこでS様邸は、段差を逆手にとって、背もたれにしようと考えたんです。」
ご主人も「スキップフロアで天井が高いんですね。その下はガレージで『ガレージの天井はそんなに高い必要はないですよね』と清野さんからご提案いただき、確かにそうだなと納得しました。」
こだわりと思い入れの詰まったS様邸だが、奥様が特にこだわった箇所がある。それは階段だ。「3階建てだと、2階部分に入り口が2つできてしまう階段がありますよね。それに抵抗があったので、階段を1つにしてくださいとお願いしました。」また、打ち合わせの初期段階から「スチール手摺」というキーワードが出てきたことに清野も驚いたようだ。
ご主人のこの家の部材に対する思い入れは深い。「施工段階になっても、気づいたことはメールで結構やり取りしました。」とのことだ。それはサッシやドアノブだけではなく、浴室にも及ぶ。サッシの一部にはビル用の部材を用い、ドアノブはご主人が選んだ動物のツノだ。浴槽も全て湿式造作を考えたが、コストとのバランスを考慮して清野がハーフユニットを提案。結果としてはこれが採用された。
また、興味深い点として、S様邸には区切りがない。洗面台を見ているとまるでヨーロッパの家を見ているようだし、浴室の床も限りなくフラットだ。これもご主人のこだわりだ。「床をフラットにしたかったんです。でも、清野さんから『フラットにしたら水が外に漏れますよ』といわれまして。私は『それでもいいからフラットにしてくれ』と頼みました。双方で話し合った結果、少しだけ段差を付けることにしました。結果やしてはやはりじわじわと水が浴室の外の洗面室に流れるんですが『これは俺が言ったんだからしかたない』と割り切り、その都度雑巾で吹いています(笑)」
奥様も区切りがない“我が家”を気に入っているようだ。「熱効率を考えていなかったので、区切りがないのはどうかと思ったんです。実際は冬でも暖かいんですね。結果的には区切りがなくてよかったです。前から使っていた小さなヒーターが1つあれば、部屋の上の方まであたたくなりますから。」1階は寒いようだがそれなら上の階で寝ればいいという考え方だ。反面、夏場は涼しいという利点を活かして1階で寝ているという。
ホープスで1つの家を設計する場合、設計期間は平均3ヶ月くらいとのことだが、S様邸はじっくりと4ヶ月の時間を費やした。注文建築を選ぶうえで大切なポイントをご主人に伺ってみた。「双方のイメージの共有は大切だと感じました。私は雑誌や写真を持参して打ち合わせに臨みました。」清野も「家を『買う』と考える方よりも、S様のように中古物件を買って自分の家を創ってみたい、と思っているような方との相性は良いかもしれません。」と語る。奥様も「自分たちが『家を買った』という感覚は全くないですね」とのことだ。
清野によると「『私たちも一緒に面白がって家づくりをしようよ』という思いを企業テーマに掲げています。自分たちが楽しく家づくりができなければ、お客様にも楽しんでいただけないし、良い家なんてできるわけがない。そう考えています。」ご主人も「この場所は消防法が厳しいんですね。例えば玄関はやってみたいことの1/4くらいしかできてないんです。この家の打合せが終わってすぐに清野さんと『今度は自由度の高い場所で創ってみたいですね』と話しました。」
最後にご主人から「お陰様で理想通りの家が出来上がりましたね。打合せを重ねながら私たちの想いを伝えて、そこからさらにホープスさんから様々なご提案をいただきました。例えば、玄関の明かりがフワッと点くんですよ。それがすごく気に入っています。」と語ってくれた。奥様も「一緒に家を建てた、という気持ちです。」という想いだ。単に「家を買う」のではなく、「家づくりのプロと二人三脚で理想の家を建てる」ことこそが、注文建築の醍醐味かもしれない。