狭小住宅では、狭小住宅特有の問題点を解決する為に、空間が縦に拡がるケースが多くありますが、その結果、冬寒い家になってしまう危険性があります。その為、狭小住宅では効率のよく家の中を暖められる暖房が非常に重要です。
狭小住宅が寒い家になってしまいがちな理由
狭小住宅は、周囲を他の住宅やマンションに囲まれている為、日当たりと風通しを設計の工夫で日当たりと風通しを確保しなくてはなりません。
その為に、吹き抜けやスケルトン階段とトップライト、ハイサイドライトを組み合わせて、陽射しと風を取り込みます。
また、限られた敷地の中で、快適に暮らせる広さの居室を作る為の床面積も必要です。床面積を確保し、視覚的に広々とした効果を得るために、スキップフロアが採用されるケースも多くあります。
吹き抜けやスケルトン階段は、縦の空間の仕切りを無くすので、家の中の空気は縦に拡がります。さらにスキップフロアは、横の空間の仕切りを無くすので、家の中の空気は横にも広がります。
その結果、狭小住宅では、冷暖房の効率が上がりにくいという問題点を抱えてしまいます。このような問題点を解決できる暖房にはどのような方法があるのでしょうか?
床から暖める暖房の種類
暖房には、大きく分けて住宅設備として住宅の建築時に設置する床暖房と、置き型の暖房があります。ここでは住宅の建築と同時に設置する床から暖める暖房の種類を確認していきましょう。
- 温水式床暖房
床下に敷き詰めた暖房パネルに、電気やガス、灯油などで温めたお湯が流入されて、床からの伝導熱と輻射熱で室内を暖める暖房方法です。直接熱が顔や体にあたらないので、乾燥が気にならず、柔らかな暖かさが心地よい暖房です。
非常に快適ですが、設置に高額な費用は掛かる、メンテナンスの費用が他の暖房に比べて嵩むという経済性の問題があります。ただし、メーカーによる耐用年数の違いはあるものの、通常の暖房器具に比べて、初期費用のうちの半分以上を占める温水パイプには耐用年数が20年から30年あります。月々の燃料費も電熱式より抑えられるので、長い目で見ると、耐用年数の短い暖房機器を買い替えるよりは低コストになるという考え方もあります。
- 電熱式床暖房
床下に電熱線のヒーターを敷き詰めて床を暖め、温めたい部屋だけを暖房する方法です。導入にかかる費用は、床暖房や蓄熱式床暖房に比べて低価格です。また、他の床暖房の場合、部分的な暖房ができませんが、電熱式の場合、暖かくしたい部分だけを暖められます。
部分的に短時間使用する場合には向いていますが、長時間広範囲に使用する場合には、電気代が嵩んでしまいます。10年使用すると、床暖房の導入費用より、月々の電気代のコストの方が高くなってしまうケースもあります。
- 蓄熱式床暖房
深夜電力で蓄熱パネルを暖め、温められた蓄熱パネルからの輻射熱で室内を暖める暖房方法です。家全体を暖めるので、家の中の温度差、朝夕の温度差が小さくなります。ただし、長期的につけっぱなしにして使用するので、温度管理の細かい調整はできません。
温水式床暖房に比べると、メンテナンスにかかる費用がほとんどないことに加えて、深夜の電力で昼間放熱させるので、電気代が節約できますが、導入には高額な費用がかかります。
床下から暖める床下エアコンとは?
通常の冷暖房用のエアコンを床下に設置して暖房器具として使用する暖房方法です。床下の空間全体を暖め、その熱で家の中を暖房します。床暖房と比べての大きな違いは、導入費用が格段に抑えられることです。
寒い地方の建築家がコストを抑えて家の中を暖める為に研究してきた暖房方法だと考えられます。その為、徐々に採用される率が増えてきたとはいえ、少数です。
その理由は、基本的にはエアコンメーカーが推奨している使用方法ではないこと、新築時にしか設置できないことが原因です。大手ハウスメーカーで新築する場合には、エアコンメーカーが推奨していない方法である床下エアコンの設置はしません。その為、個人の設計事務所や工務店で家を新築する場合にだけしか設置することができないのです。
さらに、床下エアコンについての十分な知識や経験と技術がない会社に設置を依頼すると、カビやシロアリなど、住宅の寿命を脅かすような問題がおこるリスクもあります。その為、床下エアコンを設置する場合には、建築を依頼する会社と十分に相談することが大切です。
床下エアコンを設置する為の条件
床下エアコンで効率よく家の中全体を暖める為には、様々な条件があるのですが、狭小住宅にはその条件に見合う要素が多くあります。
間取り
床下エアコンで効率よく暖房する為には、壁の少ない家である必要があります。
1台の床下エアコンで家中を暖める為には、家の中の空間が繋がっていなくてはならないからです。壁が多い家であれば、壁に塞がれてしまうので、家中に暖かい空気を循環させることができません。
吹き抜けやスケルトン階段などで縦の空間、スキップフロアで横の空間が繋がっている家が理想的です。
住宅の性能
床下エアコンで効率よく暖房する為には、基礎断熱が施された高断熱、高気密住宅である必要があります。
- 基礎断熱
床面の断熱方法には、住宅の床下を断熱する方法と、基礎のコンクリート部分を断熱する方法があります。通常の木造住宅では、床下に断熱する方法が一般的ですが、床下エアコンを設置する為には、基礎の外周部を断熱する方法である基礎断熱が求められます。基礎断熱は床下断熱に比べて、気密性が高くなるからです。
ただし、基礎断熱には注意しなくてはならない問題点が2つあります。ひとつはカビです。家が完成してから約2年間はコンクリートから湿気が放出され続けるため、カビが発生してしまうことがあるのです。もう一つはシロアリです。基礎断熱に使われている断熱材がシロアリの大好物なのです。断熱材を蟻道にし、建物の内部に侵入して増殖してしまいます。
この2つのリスクを避ける為に、十分な知識と技術、経験のある施工会社に依頼することが非常に大切です。
- 高断熱
断熱性の高い家とは夏は外気の熱を家の中に取り入れず、冬は室内の暖かさを逃がさない熱の出入りの少ない家です。床下エアコンを効率よく機能させる為には、屋根や壁、床などの家の外側から熱が失われていく率を表す外皮平均熱貫流率(UA値)が0,5以下であることが求められます。
- 高気密
気密性の高い家とは、換気扇、窓ガラスとサッシの隙間などから入ってくる隙間風が少ない家です。隙間風は、換気には非常に役立ちますが、隙間から暖房の暖かさも逃げてしまうので、暖房効率は下げてしまいます。その為、隙間をすべて合わせた面積である相当隙間(面積C値)が0,6以下の気密性が求められます。
床下エアコンに使えるエアコンのタイプ
床下エアコンには通常のエアコンを使いますが、壁掛けタイプのエアコンを使う場合には、誤作動を避ける為の条件を満たしたエアコンが使われます。
- ワイヤードリモコンがついているエアコン
ワイヤードリモコンとは壁に設置された着脱できないリモコンのことです。図書館や体育館などの公共の施設で使われているので、見たことのある方は多いと思います。
ワイヤードリモコンが向いている理由は、温度センサーがリモコンについているからです。
通常の壁掛け式エアコンには、吹き出し口のとかくに温度センサーがつけられています。そして普通の使い方をする場合には、吹き出し口のそばに温風は留まることはないので、問題は起きません。
しかし、床下エアコンとして使う場合、狭い空間内に設置するので、吹き出し口のそばに温風が滞ってしまうことがあるのです。そのような状態になると、温度センサーは、設定温度に達したと判断して運転を停止してしまいます。リモコンに温度センサーがついているワイヤードリモコンであれば、そのような誤作動は防げます。
ワイヤードリモコンは主に業務用エアコンに使われています。家庭用エアコンにもワイヤードリモコンがついている機種は一つだけですが、オプションでワイヤードリモコンがついている機種は、2種類あります。
- 床置きエアコン
床置きエアコンは、足元は冷え、顔は暑いというエアコンの弱点を克服する為に開発されたエアコンです。その為、壁掛け式では一つの吹き出し口からしか温風が出ませんが、床置き式では下からも温風が吹き出し足元も暖めます。
床下エアコンとして使用した場合、この2つの吹き出し口から温風が出ることによって、温風が床下を循環します。その結果、吹き出し口の周囲に温風が滞ることがなく、エアコンの上部の吹き出し口につけられている温度センサーが誤作動を起こさないのです。
床下エアコンの設置方法
床下エアコンには、2つの取り付け方法があります。
完全に床下に設置し、床面にガラリを取り付ける方法と、スキップフロアや小上がりの段差を利用したり、エアコンの周囲をガラリで囲んだりする方法です。
どちらの方法でも床下に充満した暖かい空気が、ガラリから放出され、家の中全体を暖めます。
床下エアコンで注意しなくてはならないこと
床下エアコンとして設置したエアコンで冷房はできません。冷房をすると水分が出て、湿気で住宅を劣化させてしまう恐れがあるからです。その為、床下エアコンの他に、上の階に冷房用のエアコンをもう1台設置しなくてはなりません。しかし、床暖房の導入費用を考えれば、かなり費用を抑えられます。
また、壁掛けとして使うよりも掃除と点検がしにくいということも覚えておく必要があります。エアコンの掃除だけではなく、床下の掃除と点検も必要です。
床下エアコンは、狭小住宅の間取りを活かして暖房効率を上げられる暖房の方法です。ただし、電機メーカーが推奨している使い方ではないので、故障した時に保証の対象にならないことや、カビやシロアリのリスクがあることも知っておく必要があります。
どこに施工を依頼しても必ず良い結果が得られるわけではありません。また、リスクを避ける為に施工しない会社もあります。狭小住宅を新築する際の暖房方法の選択肢の一つとして知っておき、実際に設置したいという希望があれば、施工を依頼する会社と十分に相談することが大切です。
HOPEsの狭小住宅への思い
ホープスは、狭小住宅での快適な暮らしを実現させたいという思いで、すべての住宅の建築に向き合っています。
根本にあるのは、狭小住宅での快適さとは、無駄を省いたシンプルな暮らしにあるのではないかという考え方です。
敷地の形、道路や周辺の環境に合わせて、日当たりと風通しの良い家、プライバシーを確保できる家、高いインテリア性と優れた住宅性能を持つ暮らしやすい家、安心して暮らせる防犯性の高い家をご提案します。
狭いから快適さをあきらめるのではなく、より快適な暮らしを目指して、施主様のご希望に沿った家にしていきます。
狭小住宅としての参考になる施工例がたくさんございます。ぜひご覧ください。